08年度の概要
昨年のボストン・レッドソックスは、アメリカンリーグ優勝決定シリーズで1勝3敗という劣勢から、なぜか3連勝で1986年以来のリーグ優勝、ワールドシリーズでは9月半ばから1敗しかしていないコロラド・ロッキーズに4連勝と不思議な強さを発揮して世界一になった。今季も4月11日に5勝6敗で東地区最下位に落ちたのを最後に、シーズン終了まで勝率5割以上を保つという強さを発揮している。ところが、タムパベイ・レイズがその上を行く勢いで勝ち上がり、5月下旬からはこの2ティームでの首位争いが展開された。6月下旬の5連敗で2位に後退すると、その後はほとんどその位置を動けず。9月15日から直接対決の第1試合に勝って首位に返り咲いたのも束の間、続く2試合に敗れて再び2位に転落。95勝67敗で2位に終わったが、ワイルドカードでポストシーズン進出を決めた。地区シリーズではMLB唯一の100勝ティーム、ロサンジェルス・エンジェルズ・オヴ・アナハイムに3勝1敗で勝ち抜き。優勝決定シリーズはタムパベイとの顔合わせになったが、今度も1勝3敗から連勝して、シリーズは第7試合にまで持ち込まれた。しかし、この5年間で2度の世界一を支えたダビド・オルティスがチャンスで打てずに敗れ、連覇は達成できなかった。
投手
未分化大細胞リンパ腫を克服した左腕ジョン・レスターが、復帰からわずか2年でティームのエースになった。5月19日の試合で無安打無得点試合を達成してから俄然投球内容が良くなり、6月からオールスターゲーム前までにかけて、負けなしの4連勝。シーズン後半は、9勝3敗、防禦率2.95と、ティームで一番の働きを見せた。昨年20勝の右腕ジョシュ・ベケットは、腰痛のために故障者リスト入りのまま開幕を迎えた。出遅れた割にはシーズン前半だけで9勝をマークしていたが、オールスターゲーム直後に3連敗。8月半ばには右肘を傷めて2週間休んだこともあって、シーズン後半は勝ち星が伸びず、12勝10敗、防禦率4.03と冴えない成績で終わった。赤靴下を履いて今年で14年目のティム・ウェイクフィールドは、5月に1勝4敗、防禦率5.25と打ち込まれた他は、シーズン前半6勝6敗、防禦率3.60と悪くない投球内容だった。しかし、8月に右肩を傷めて2週間欠場。復帰後は7試合の先発で防禦率6.35と振るわなかった。昨年デビュー2試合目でノーヒッター達成して話題になった新人右腕クレイ・ブックホルツは、5月に右中指の爪を割って故障者リスト入り。4週間で復帰したが、およそ1カ月は登板機会を与えられず、7月からようやくローテーションに戻ったが7試合の先発で6敗、防禦率8.27と落ち込み、9月はまたマウンドから遠ざけられた。
優勝決定シリーズ第5試合で先発を務め、3本塁打を浴びて5回も持たず降板。ところが、試合終盤の奇跡的な逆転で負け投手は免れるという試合は、今年のマツザカ・ダイスケを象徴するものだった。MLB2年目のマツザカは、昨年後半全く使い物にならなかったことを鑑みて、今季はシーズン前半で休みを取った。18勝3敗、防禦率2.90の好成績を残したように見えるが、29度の先発で、投球回数が167回3分の2というのは、6回も投げられなかったことを意味する。そのうえ、1試合あたりに与えた四球は5個以上。昨年は長いイニングを投げさせると打ち込まれることが多かったので、今年は味方がリードを奪うとすぐに救援が送られた結果がこの数字なのだろう。マツザカ休養時に、2年ぶりのマウンドとなるデイヴィッド・ポーリィと、今年がMLBデビューになるジャスティン・マスタースンと両新人右腕が代役を務めた。ポーリィは6試合に登板して防禦率11.68と振るわなかったが、マスタースンは、マツザカが戻ってからもブルペンに残り、スウィングマンとして6勝5敗、防禦率3.16をマークしている。
右肩の故障で開幕から故障者リスト入りしていたカート・シリングは、結局シーズン中に手術を受けたために、今季は一度もマウンドに登ることができなかった。一方、招待選手として春期練習に参加していた、2005年のサイ・ヤング賞右腕バルトロ・コロンは、ブックホルツの故障者リスト入りに伴ってMLB復帰。すぐに3連勝をマークしたものの、腰痛で6月中旬から欠場。その後は9月に1試合だけ先発を務めて5失点を喫するとすぐにマイナーリーグに戻された。
抑えの右腕ジョナサン・パペルボンは、自身初の40セーヴをマークするなど、5勝4敗41セーヴ、防禦率2.34。今年もボストンの最終回を締めた。しかし、この試合に勝てばタムパベイ・レイズから東地区首位の座を奪回できるという9月9日の試合で逆転を許したのは痛かった。昨年通算1,000登板をマークした42歳のヴェテラン右腕マイク・ティムリンは、右薬指の故障で開幕には間に合わなかったうえ、4月は防禦率13.50とさんざんだった。5月に入って防禦率2点台の投球をするようになったが、6月には膝の故障でまたメンバーを離れた。結局シーズン通算で47登板は、ティムリンが赤靴下を履いた03年以来最小の記録で。防禦率5.66も最も悪い数字だった。右腕マニー・デルカーメンも開幕当初は6点台の防禦率に苦しんでいたが、シーズン後半は30試合で防禦率1.82と好投。通算でははティーム最多の73試合に登板して防禦率3.27と、パペルボンの前抑え役を果たしたと言っていいだろう。シカゴ・ホワイトソックスから獲得した右腕デイヴィッド・アーズマは、シーズン前半に37試合登板で防禦率2.77に、投球回数を上回る三振を奪う投球を披露していたが、オールスターゲーム直後の登板中に右脚の付け根を傷めてメンバーを離れた。8月に復帰したものの、また同じ箇所を傷め、シーズン後半は10試合しかマウンドに登れなかった。左腕はハビエル・ロペスとオカジマ・ヒデキとの2人が常にブルペンに控えていた。デルカーメンに次ぐ70試合でマウンドを務めたロペスは、防禦率2.43と安定感があったが、防禦率2.61と好投しているオカジマは、走者がいる場面で登場するとかなり打ち込まれており、リードをふいにした試合が8試合もあった。
野手
ダビド・オルティス、マニー・ラミレスと並んだ3番、4番は、ボストン打線の顔とも言えるものだったが、ついにそのコンビが解消されるときが来た。オルティスは、2003年にボストンに来てから、5年連続で100打点、30本塁打を打ち続けてきたが、今季は開幕から打撃不振で4月までの打率が.198。5月に.318、22打点、8本塁打と、本来の調子を取り戻したと思われた矢先に左手首を傷め、2カ月もメンバーから離れることになった。オールスターゲーム後に復帰してからは、本調子でないながらも55試合で46打点と勝負強さを発揮した。しかし、優勝決定シリーズ第7試合の8回表、1アウト一、二塁というチャンスでの凡退は、オルティスの衰えを見るようだった。ラミレスの一件は、あまりにもあさましい話だった。言った言わないという行き違いが発端となって、ラミレスはクラブに対する不満を一気にぶちまけた。結局両者の関係が修復されることはなく、ラミレスは、ロサンジェルス・ダジャーズに去り、ピッツバーグ・パイレーツからジェイスン・ベイがやって来て左翼を守った。ベイは移籍直後の8月には打率.315、29打点と活躍したが、9月には.260、8打点、5本塁打と調子を落としている。それでも、2ティーム合計で打率.286、111得点、101打点、31本塁打、10盗塁と、ベイ本来の数字であった。8月下旬には、左打ちの外野手としてアトランタ・ブレイヴズのマーク・コツェイを獲得したが、22試合で打率.226とあまり活躍の場面はなかったようだ。
ラミレスの騒動で雰囲気の悪くなったティームを支えたのは、昨年の新人賞ダスティン・ペドロイアだった。5月に.260だった以外は全ての月で3割以上の打率をマーク。シーズン後半には打撃に勝負強さが備わり、ときには4番を任されることもあった。シーズン打撃成績は、打率.326、118得点、83打点、17本塁打、20盗塁。守備でも6失策と安定感のあるところを示して、シルヴァースラッガー賞とゴールドグラヴ賞との両方に選出されただけでなく、MVPの栄誉にも浴することになった。ペドロイアと同じく、レッドソックス組織内で育ってきたケヴィン・ユーキリスは突如として長打者に変貌した。オールスターゲームまでには、昨年マークした自己最多の16本塁打にあと1本足りない15本塁打を打つと、シーズン後半はさらに勢いづいて、57試合で打率.310、52打点、14本塁打を打って、中軸としての役割を果たした。2年目の新人ジャコービ・エルズベリーは、開幕試合では中堅手を守ったが、ティームの事情に合わせて外野の3ポジションをこなして145試合に出場。50盗塁を決めて、レッドソックスの選手としては1973年のトミー・ハーパー以来となる盗塁王のタイトルを獲得した。来季もリードオフマンとして活躍するためには.336しかなかった出塁率を向上させる必要があるだろう。ジェド・ローリーは、控え内野手のアレクス・コラが右肘を捻挫したため、4月半ばにデビュー。コラの復帰に伴いマイナーリーグに戻されたが、7月にフリオ・ルゴが故障者リスト入りすると、再びMLBに呼ばれた。シーズン後半は正遊撃手として定着し、61試合で打率.254、39打点、1本塁打の成績を収めた。一方のルゴは結局オールスターゲーム以降を全休し、6年ぶりに出場試合数が2ケタにとどまっている。
生え抜きの若手の活躍に比べて、ここ数年のうちにボストンにやってきた選手はいずれも冴えない成績だった。昨年のワールドシリーズMVPに選ばれている三塁手マイク・ローウェルは、シーズン当初から怪我に悩まされてきた。まず4月には左手親指の捻挫。半月休んで復帰してからは、5月、6月合わせて.324、47打点、12本塁打と打ちまくっていたが、7月に入ると打率.214と調子を落とした。8月には2度目の故障者リスト入りとなり、シーズン通算での113試合。2000年以来初めて規定打席に到達することができなかった。右翼手J・D・ドルーは、シーズン序盤に出遅れたものの、6月18日の試合で5打数4安打をマークするなど、6月には打率.337、27打点。12本塁打は昨年1年間で打った本塁打を上回る数だった。ところが、ドルーがよかったのはその月だけで、7月には打率.221、9打点、3本塁打と落ち込み、8月半ばには腰を傷めて故障者リスト入り。3年ぶりに規定打席に到達することができなかった。ココ・クリスプは、エルズベリーの成長によって出場機会が減った。第4の外野手という立場で118試合に出場。20盗塁と脚力のあるところは見せたが、下位を打たされることが多く、リードオフマンとしての活躍の場はほとんどなかった。控え一塁手として今季契約を結んだショーン・ケイシィは、開幕当初はユーキリスと一塁の座を分け合っていたが、4月下旬に臀部を傷めて欠場。5月に復帰したときにはほとんど先発で出場する機会はなかった。
捕手ジェイスン・ヴァリテクは今年も120試合に先発を務め、若いスタッフをよくリードした。しかし、打率.220は現役生活最低の成績で、来年開幕早々に37歳になるという年齢から来る衰えが無視できなくなってきているようだ。ダグ・ミラベッリに代わって、ウェイクフィールド専属の捕手に選ばれたのは、強肩巧守のケヴィン・キャッシュ。ナックルボーラー相手に捕逸14回で抑えたのはなかなかの技量だった。
MLBにようこそ
ボストンの顔と言えばナックルボーラーのティム・ウェイクフィールドだが、その後継者とも言うべき投手が今年デビューした。チャーリー・ジンクは、美術系大学のサヴァナ・カレッジ・オヴ・アート・アンド・デザイン出身というところからして変わっているが、独立リーグでプレイした後、大学時代のコーチの推薦を受けて赤靴下を履いたというのも異色である。そして得意球がナックルボールと来れば、言うことはないだろう。ウェイクフィールドが故障者リスト入りした8月12日にMLBデビュー。初先発も務めて、あとアウト2つをとれば初勝利のチャンスというところで連打を浴びて降板。28歳のナックルボーラーの初試合は残念な結果に終わった。
09年への展望
ラミレスがボストンを去るときに口にした、ノマー・ガルシアパラやペドロ・マルティネスをあっさりと手放して、クラブは選手を大事にしていないという批判は、的を射た意見だった。ここ数年続いている、永遠のライヴァル、ニューヨーク・ヤンキーズとの見栄の張り合いで、ティームにとって必要な選手を見誤っているのではないかと思われるふしもある。強打の一塁手マーク・テイシェイラ獲得に8年契約を提示したという噂が聞かれるが、それは本当に理にかなった契約と言えるのだろうか。