08年度の概要
ルー・ピニエラを新しい監督に迎えて、昨年ナショナルリーグ中地区優勝を果たしたシカゴ・カブズの勢いは、今年になってさらに増していた。開幕シリーズは1勝2敗と負け越したものの、4月5日からの5連勝、18日からの6連勝で首位に浮上。5月初めに一度2位に後退したが、5月26日から今季最長の9連勝で首位の座を奪い返すと、後はミルウォーキー・ブルワーズに1日だけ同率で並ばれたのを除けば、シーズン終了まで首位の座を守りきり、リーグ最高の97勝64敗の成績で2年連続地区優勝を決めた。カブズが2年続けてポストシーズンに駒を進めるのは、1906年から3年連続リーグ優勝を果たして以来というから、実に100年ぶりの快挙である。ボストン・レッドソックスの86年ぶり、シカゴ・ホワイトソックスの88年ぶりの世界一に続けとばかりの意気込みで臨んだ地区シリーズは、昨年アリゾナ・ダイアモンドバックスに喫したのと同じく、ロサンジェルス・ダジャーズにも3連敗であえなく敗退。1908年以来の世界一は成し遂げられなかった。
投手
昨年は自己最多の18勝をマークした右腕カルロス・サムブラノは、今年は20勝達成も可能なのではないかと見られていた。実際、5月までのサムブラノは7勝1敗、防禦率2.33をマーク。6月に肩を傷めて2週間休んだ後の7月も、4勝1敗、防禦率1.78の好成績で、初の大台到達への期待は高まっていた。ところが、5回途中までに9失点を喫して負け投手になった8月9日以降は、8試合の先発で、完封勝利も挙げたものの、2勝2敗、防禦率7.93と打ち込まれ、通算成績は14勝6敗、防禦率3.91にとどまっている。シーズン後半にサムブラノが振るわなかったため、ティーム最多勝は、左腕テッド・リリーと右腕ライアン・デムプスターが17勝で分け合った。リリーは、4月に1勝4敗、防禦率6.46と出遅れたが、次の2カ月で8勝をマーク。オールスターゲーム以降はティーム最多の8勝、防禦率3.32と調子を上げた。デムプスターは、この4年間は主に抑え投手として働いていて、ローテーションで投げるのは2003年以来のことだが、4月は4勝無敗、防禦率3.16と好調な滑り出しを見せ、オールスターゲームを待たずに、7年ぶりのふたケタ勝利をマーク。シーズン後半にはさらに調子を上げて、7勝2敗、防禦率2.52の成績を収めている。
7月上旬に地区のライヴァル、ミルウォーキー・ブルワーズがC・C・サバシアを獲得するや、カブズはオークランド・アスレティックスの右腕リッチ・ハーデンを迎えた。移籍直後のハーデンは、4試合続けて1失点以内に抑えながら1勝しか挙げられないなど、ややついていないところもあり、12試合に先発して防禦率1.77と抜群の投球を披露したのにもかかわらず、5勝1敗と勝ち星は伸びなかった。しかし、2ティーム合計で10勝は3年ぶりのふたケタ勝利。防禦率2.07、投球回数をはるかに超える181奪三振は、故障さえなければサイ・ヤング賞の有力候補と言われる技量を物語っている。
右腕ジェイスン・マーキスは、春期練習中に監督ピニエラから先発では使えないと痛罵されたこともあった。しかしシーズンが始まってみれば、開幕からローテーションの一角を占めた。ハーデンが加わってからは、先発を飛ばされることも何度かあったが、5年連続のふたケタ勝利となる11勝、防禦率4.53の成績を収めている。昨年11勝をマークした左腕リッチ・ヒルは、今年も開幕からローテーションに加わっていたが、5月最初の先発で1イニングに打者4人を歩かせたのがピニエラの逆鱗に触れ、以降はマイナーリーグに送られることになった。ヒルに代わってローテーションに抜擢された新人右腕ショーン・ギャラガーは、10試合の先発で3勝4敗、防禦率4.45の成績だったが、7月のハーデン獲得のときにオークランドに譲り渡された。
デムプスターが先発に回った後のクローザーには誰が定着するか注目されていたが、意外にもケリー・ウッドが抑え役に選ばれた。開幕試合で3失点を喫し、クローザーとしての仕事ぶりに不安を抱かせたが、シーズン前半は4勝24セーヴ、防禦率3.02とまずまずの数字を残した。ところが、右手人差し指のまめをつぶしたために、7月後半を欠場。8月からマウンドに戻ったが、9月は防禦率6.75とやや打ち込まれた。ウッドと抑えの座を争った右腕カルロス・マルモルは前抑えに定着。ティーム最多の82試合に登板して防禦率2.68と好投、投球回数をはるかに上回る114個の三振を奪った。ウッド欠場時には代役を務め、7個のセーヴを挙げている。また、やはり抑え候補の一人だったヴェテラン右腕ボブ・ハウリーはマルモルに次ぐ72試合に登板したが、防禦率は前年より2点以上も悪い5.35に落ち込んでいる。
昨年73試合でマウンドを務めた右腕マイケル・ウァーツは、今年もシーズン前半に37試合に登板したが、前半最後のマウンドで4失点を喫するとすぐにマイナーリーグに送られ、9月まで復帰できなかった。ハーデンと一緒にオークランドからやって来た右腕チャド・ゴーダンは、移籍前までは防禦率3.59とまずまずの投球内容だったが、カブズに来てからは24試合で防禦率6.26と数字を落としている。6年ぶりにカブズに復帰した38歳のヴェテラン右腕ジョン・リーバーは、シーズン前半は長抑えとしてマウンドを務め、2勝3敗、防禦率3.43の成績を収めていたが、オールスターゲーム前の最後の登板で右足を傷め、後半は1試合しかマウンドに登れなかった。同じシカゴに本拠地を置くホワイトソックスから獲得したニール・コッツは、4勝0敗、防禦率1.94をマークした05年の投球には及ばないが、前年の故障から立ち直って、50試合に登板している。一方、昨年55試合でリリーフした左腕スコット・エアは、19試合で防禦率7.15と不調のうえ、左脚付け根の故障も重なって、7月以降は登板機会なし。8月にはフィラデルフィア・フィリーズにトレードされている。
7月下旬にウッドが故障者リスト入りしたときにMLBに呼ばれたのは、新人右腕ジェフ・サマージヤだった。デビュー試合ではいきなり1失点を喫したが、次の登板でMLB初セーヴを記録。8月には13試合無失点と好投した。9月は防禦率5.40と振るわなかったが、26登板で防禦率2.28はいい出来だった。その他の新人では右腕ケヴィン・ハート、左腕カーメン・ピニャティエッロ、アトランタ・ブレイヴズから獲得した右腕ホセ・アスカニオの2年目トリオは、いずれも打ち込まれている。また、新人ではないが、かつてはカブズ組織内No.1の若手と評されたこともある右腕アンヘル・グスマンは、故障のためにシーズンの大部分を棒に振ってしまった。9月にMLBに呼ばれたが、6試合で防禦率5.59と、やはり冴えない投球だった。
野手
アラミス・ラミレスが4番打者としてカブズ打線の中心になった。6月から7月にかけてやや打撃が低調ではあったが、あとの月では打率3割前後を維持。この5年間で4度目になる100打点をマークしている。しかし、年々向上していた三塁守備が、今年は守備範囲が狭まり、失策も増えている点はやや気にかかる。一塁デレク・リーは、3番打者としてラミレスの前を打った。4月に打率.371、23打点、8本塁打を打って、三冠王も期待された2005年の活躍を思い起こさせたが、5月以降はやや低調。特にシーズン後半には長打が出なくなり、61試合でわずか5本塁打、打点も34しか挙げられなかった。シカゴへ来て2年目のアルフォンソ・ソリアノは、今年も故障が多かった。開幕から2週間目で右肩を傷めて故障者リスト入り。5月に復帰したものの、6月半ばに右手を骨折して、今度はひと月以上も欠場している。シーズン通算では昨年の135試合よりもさらに少ない109試合の出場にとどまったため、規定打席をぎりぎりで上回っての、打率.280、75打点、29本塁打、19盗塁という成績に終わった。
今年のシカゴで一番の成長株となったのが4年目の新人ヘオバニ・ソトだった。昨年はいろいろ問題のあった捕手に抜擢されたソトは、4月に.341、20打点、5本塁打をマーク。時にはリー、ラミレスに続く5番打者を任されるなど、打てる捕手として周囲に強く印象づけた。課題とされていた守備でも長足の進歩を見せており、シーズン終了後の記者投票で、ナショナルリーグ新人賞に選出された。ソトが急成長したために、ヴェテランのエンリ・ブランコが先発でマスクをかぶる機会は減ったが、ブランコ自身にとっては自己ベストとなる.292を打った年になった。盗塁阻止率.455と強肩も健在である。
一方、4年契約で迎えられた新人フクドメ・コウスケは、練習試合での不調でシーズンでの活躍が危ぶまれた。開幕試合でエリク・ガニェから同点本塁打を打ったのに調子づいて、4月までは.327と当たっていたが、それが頂点だった。以後毎月打率を落とし、8月、9月は2割も打てないというありさま。ゴールドグラヴ級と言われていた守備も水準以下では、とてもレギュラーで起用するわけにはいかなかった。このオフシーズン、早くもトレードの噂が囁かれているのは当然のことで、それでも残留することになるなら、日本にいたころに背負っていた看板は外した方が賢明だろう。フクドメと同じく期待はずれに終わったのはフェリクス・ピエ。フューチャーズゲームに3度選出という逸材も、MLBではまだ力不足であるのか、開幕から25試合で打率.222しか打てず、5月中旬にマイナーリーグに送られた。9月にメンバーに戻ったものの先発で出場したのは2試合だけだった。
フクドメ、ピエと、開幕試合で先発に起用された外野手2人はいずれも冴えなかったが、リード・ジョンスン、ジム・エドモンズと2人のヴェテランがカヴァーした。ジョンスンは春期練習中にトロント・ブルージェイズから解雇されていたのを、開幕直前に契約。開幕から4試合で3安打しか打てなかったピエに代わって中堅手に起用された。シーズン通算では333打数ながら打率.303。満塁の場面で.556をマークするなど、得点圏打率.358、45打点と勝負強い打撃でティームに貢献している。5月中旬には、サンディエゴ・パドレスから解雇されたエドモンズと契約、右打ちのジョンスンと中堅のポジションを分け合うことになった。ゴールドグラヴの常連だったエドモンズの守備はずいぶん衰えてしまったが、カブズ移籍後85試合で19本塁打と、左打ちの長打者がいない打線をカヴァーした。ヴェテランと言えば、ダリル・ウォードも、打率は低かったが、代打や控えの一塁手、外野手としていい働きを見せたと言える。
定位置なきレギュラー、マーク・デロサの活躍はティームMVPに選ばれてもいいほどの目覚ましさだった。シーズン当初は二塁手を務めていたが、フクドメが打てないことがはっきりとし始めた6月ごろから右翼手としてもプレイ。ソリアノ欠場中には左翼手までこなして、合計149試合に出場し、103得点、87打点、21本塁打はいずれも自己ベストという数字だった。デロサと二遊間コンビを組んだライアン・セリオットは、完全に定位置を確保したようだ。今年は打率.307をマークしたのに加えて、四球の数も増えたおかげで、出塁率が.326から.387に向上。長打力のあるソリアノとともに、相手投手に恐れられる1、2番コンビを形成した。守備範囲やグラヴさばきにやや難があるものの、来季も正遊撃手として活躍するだろう。デロサが右翼に起用されることが多くなった夏場以降は、マイク・フォンテノットが二塁に入り、大学時代のティームメイトだったセリオットとコンビを組み、シーズン後半だけで打率.360を打っている。06年の正遊撃手だったロニ・セデニョは、内外野手として再出発。99試合出場で打率.269、28打点、2本塁打は悪くない数字だ。
MLBにようこそ
マイカ・ホフポーアは、2002年にドラフト第13巡指名を受けてプロ入りしている。今季は、ウォードが故障者リスト入りしていた5月中旬から6月中旬にかけてカブズに加わり、打率4割を打った。その後AAA級に戻ってからは、8月9日に1試合4本塁打を放つなど、75試合の出場ながら、打率.362、100打点、25本塁打と猛打を揮った。9月に再昇格したときには、25日の試合でMLB初本塁打を含む2本塁打で5安打5打点の活躍を披露した。フクドメが完全な期待はずれ、ピエも伸び悩んでいるため、左打ちで長打力もあるホフポーアにとって、来季は右翼の定位置争いに食い込むチャンスである。
09年への展望
ハウリーはすでにサンフランシスコ・ジャイアンツと契約を結び、ウッドのクリーヴランド・インディアンズ移籍も発表された。また一から探さなければならなくなったクローザーには、果たして誰が指名されるのだろうか。あとはリー、ラミレス、ソリアノ、デロサ、ソトと強打者は右ばかりという打線のアンバランスを解消してくれる、左の長打者が来てくれれば、今度こそ101年ぶりのワールドチャンピオンへの道が開けてくる。