フィラデルフィア・フィリーズ

08年度の概要
今シーズンのフィラデルフィア・フィリーズは、開幕から勝ち星が続かず、やや出遅れたかに見えた。しかし、ナショナルリーグ東地区のライヴァル、ニューヨーク・メッツが伸び悩んでいる隙をついて、6月1日に単独首位に浮上すると、オールスターゲーム直後までトップの座を守り続けた。シーズン後半にはいると、メッツも調子を上げてきて、いよいよ2ティームの争いで終盤を迎えるが、9月11日から今季最長の7連勝で首位の座を奪回。その後の9試合を6勝3敗で乗り切ってメッツを振り切り、92勝70敗で2年連続地区優勝を手にした。昨年は勢いに乗るコロラド・ロッキーズから1勝もできずに敗れ去った地区シリーズも、今季はまずミルウォーキー・ブルワーズに3勝1敗。ロサンジェルス・ダジャーズとの優勝決定シリーズも4勝1敗と難なく 1993年以来のリーグ優勝を成し遂げた。ワールドシリーズは、ティーム創設11年目で初のアメリカンリーグ優勝となったタムパベイ・レイズとの顔合わせ。フィラデルフィア3勝1敗での第5試合は、雨のために試合が途中で中断、2日後に再開という長い試合になったものの、1点差で逃げ切ったフィラデルフィアが勝利を収め、1980年以来のワールドチャンピオンに輝いた。

投手
左腕コール・ハメルズは昨年故障欠場がありながらも15勝をマークしているが、今年はオールスターゲームをはさんでおよそ1カ月半も勝ち星を挙げることができなかったためもあり、14勝10敗と平凡な数字に終わった。しかし、3失点以内に抑えながら勝ち星を挙げられなかった試合が11もあったことを考えると、20勝以上の投球内容ではあったろう。また、防禦率3.09はリーグ5位、196奪三振はリーグ6位の数字だった。しかし、ポストシーズン以降のハメルズの活躍は目覚ましく、地区シリーズから通算で5試合に先発を務め、4勝無敗、防禦率1.80、30奪三振をマーク。優勝決定シリーズでは2試合先発で2勝、防禦率1.93、13奪三振の成績でMVPに選ばれ、ワールドシリーズでも2試合先発の1勝、防禦率2.77、8奪三振をマークしてMVP。ポストシーズンで2つのMVPはMLB史上5人目のことである。ティーム最多勝利は、45歳の大ヴェテラン左腕ジェイミー・モイアーの16勝だった。4月は1勝しか挙げられなかったモイアーも、5月には4勝負けなしと盛り返し、オールスターゲーム以降は、8勝1敗、防禦率3.39と、年齢を感じさせない、安定した投球ぶりであった。

左腕投手2人の働きは見事だったが、右腕の先発投手は今ひとつ冴えなかった。昨年は故障者が出たためにクローザーを務めていたブレット・マイアーズは、先発に戻り、開幕試合でマウンドに登った。しかし、シーズン当初から5点台の防禦率が続き、オールスターゲームまでの成績は3勝9敗、防禦率5.84。一時マイナーリーグに送られたが、復帰してすぐの8月に完封勝利1回を含む4勝1敗、防禦率1.65と好投したが、シーズン通算ではやっと10勝13敗、防禦率4.55だった。昨年新人ながら10勝のカイル・ケンドリックは、シーズン前半に8勝3敗、防禦率4.47と、悪くない数字を残していたのだが、オールスターゲーム後は6失点以上を喫した試合が5試合もあるなど調子を崩し、前年を上回る11勝こそ挙げたものの、防禦率は2点近く悪い5.49だった。昨年10勝10敗、防禦率6.29のアダム・イートンは、今季初勝利を挙げたのが5月28日。その後も勝ち星は伸びず、シーズン後半が始まるとまもなくメンバーから外された。オールスターゲーム後に、オークランド・アスレティックスから右腕ジョー・ブラントンを獲得して、イートンの代わりにローテーションに据えた。13試合に先発したが、巡り合わせが悪いのか、8月までは1勝しか挙げられず、9月に入ってようやく3勝をマークして、ティームの地区タイトルに貢献できた。

昨年はトム・ゴードンが故障したために、クローザーで苦しんだフィラデルフィアは、ヒューストン・アストロズから右腕ブラッド・リッジを獲得した。この2年ほどセーヴ機会をしばしば逃し、自信喪失の気味もあったリッジだが、05年のアストロズ初優勝当時の投球を取り戻している。今季は72試合でマウンドを務めたが、明らかに打ち込まれたと言えるのは、7月25日のアトランタ・ブレイヴズとの試合で4安打5失点、1アウトも奪えずに降板したときだけだった。シーズン通算防禦率は1.95、過去2年間で19本も打たれていた本塁打を2本に減らしたのも素晴らしいが、何と言っても41度のセーヴ機会に全て成功したのは見事だった。リッジの前を固めたのは、ライアン・マドスン、チャド・ダービンの両右腕と左腕J・C・ロメロの3人。マドスンは、先発に起用されたり、抑えを任されたりもしたが、今年は一番得意なのらしい前抑えに固定された。夏場にやや調子を落としたこともあったが、右腕投手としてはティーム最多の76試合に登板して、防禦率3.05と好投した。昨年は19試合で先発も務めているダービンも、今年は71試合全てが救援登板だった。試合数では譲るが、防禦率2.87はマドスンをしのぐ。昨年途中にフィラデルフィアに来てからかつての投球を取り戻したロメロは、左打者相手の点抑えとして、レギュラーシーズンの半分の試合に登板。ワールドシリーズでは2勝を挙げるなど、MVPのハメルズに劣らぬ活躍を披露している。

右腕クレイ・コンドリィは、シーズン前半には好不調の波があったものの、オールスターゲーム以降は26試合で防禦率2.73と安定してきた。招待選手から復帰のヴェテラン、ルディ・シーンズは、夏場に右肩を傷めて半月ほど休んだ他はほぼシーズン通してブルペンに控え、42試合で5勝4敗、防禦率3.53の成績を収めた。昨年故障で振るわなかったゴードンは、34試合に登板して防禦率5.14と今年も不振に終わっている。

野手
昨年のナショナルリーグMVPに選ばれた遊撃手ジミー・ロリンズ、一昨年のMVP、一塁手ライアン・ハワードに、近い将来MVPに選ばれる可能性のある二塁手チェイス・アトリィが並ぶフィラデルフィアの打線は強力だ。今季のロリンズは、開幕して間もなく左足首を捻挫して故障者リスト入りした。復帰後も昨年のように驚異的な打棒を揮うことはできず、昨年の.296、139得点、94打点、30本塁打、41盗塁から、今年は.277、76得点、59打点、11本塁打、47盗塁と数字の上では低調だったと言える。しかし、守備では7失策と安定しており、2年連続のゴールドグラヴ賞は妥当な線であろう。ハワードはティームでただ一人162試合全てに出場。昨年もシーズン当初は打撃不振が続いたが、今季も5月下旬まで打率が2割未満という状態だった。本来の当たりを取り戻したのは7月に打率.311、27打点、10本塁打をマークしてからで、終盤の9月には.352、32打点、11本塁打を打ち、ティームの地区タイトル獲得に貢献した。シーズン成績は打率.251ながら、146打点、48本塁打でMVPに選ばれた2006年以来2度目となる打点、本塁打の二冠を手にしたが、MVP投票では第2位だった。昨年は手首の骨折で1カ月以上も休んでいるアトリィだが、今年はほぼ全試合に出場した。4月に打率.352、21打点、10本塁打と好調な滑り出しではあったが、5月以降は打率が下がり、本塁打のペースも落ちた。シーズン前半に.291、69打点、25本塁打を打ったのに比べると、オールスターゲーム以降は.292、35打点、8本塁打と低調。4年連続100打点、3年連続100得点、自己ベストの33本塁打をマークはしたが、シーズン通しての働きは今ひとつだった。

内野手の中で一番見劣りのしていた三塁には、サンフランシスコ・ジャイアンツからペドロ・フェリスを獲得した。夏場に腰を傷めて1カ月休んだこともあるが、シーズン成績は.249、58打点、14本塁打。4年間続けていた20本塁打は途切れ、打点もこの5年間で最低の数字だった。左打ちのグレッグ・ドブズも三塁を守ることはあったが、ドブズの真価は代打で起用されるときの方がより発揮される。今季は代打として22安打を打ち打率.355、16打点をマークしている。今年ヒューストン・アストロズから来たエリク・ブラントレットは、フェリスやロリンズの欠場時に代役を務めるなど、内外野6つのポジションでプレイ。03年にMLBに昇格して初めて出場試合数が100を上回っている。

三塁の他にも、監督チャック・マヌエルは、捕手と右翼手とでプラトゥーニングを行なっている。捕手はカルロス・ルイスが92試合に先発を務めたのに対して、クリス・コストが69試合と、レギュラーシーズンのほぼ全試合を2人でまかなった。ルイスは、打率.219と打撃では振るわなかったものの、守備やリード面での信頼は厚く、ポストシーズンでは13試合全てに出場し、そのうち12試合で先発している。昨年自伝が出版されているコストは、打率.263、36打点、9本塁打と、打撃面ではルイスをリードしている。右翼には左打ちのジェフ・ジェンキンズが72試合、右打ちのジェイスン・ワースが73試合と、ほとんど半々の割合で起用されているが、シーズン当初はジェンキンズの方が主に先発を務めていた。しかし、シーズン前半は打率.237、24打点、7本塁打と、持ち前の長打力が発揮されず、8月下旬に臀部を傷めてからは出場機会が減った。ワースは5月16日の試合で3打席連続本塁打を放って注目されたが、直後に故障者リスト入り。6月に復帰してからはワースの出場機会が増え、8月以降は大部分の試合でワースが先発右翼手に起用されている。ワースは自己最多の134試合に出場、規定打席には届かなかったが、24本塁打、20盗塁と、長打力だけでなく脚力もあるところを披露した。

アーロン・ロワンドの移籍で中堅手に回ったシェイン・ヴィクトリノの活躍は目覚ましかった。月によって好不調の差がはっきりとしてはいたものの、打率.293、102得点、58打点、14本塁打はいずれも自己ベストの数字。36盗塁と脚力のあるところも披露して、主に1、2番打者として活躍した。リーグ平均からすると守備範囲はそれほど広くはないのだが、前任者ロワンドに勝るとも劣らない積極的なプレイを評価されて、初のゴール津グラヴに選出されている。左翼手パット・バーレルは、4月に打率.326、24打点、8本塁打と、内野トリオをもしのぐ猛打を揮っていたが、5月には早くも調子が落ち始めた。長打力はあるが、打率と打点とが伸びてこない打撃は相変わらずで、02年にマークした最多出場試合と並ぶ157試合に出て、同じ年に放った37本塁打に次ぐ33本塁打を打ちながら、打率.250、86打点は前年の数字を下回っている。ポストシーズン出場資格を得るための期限日ぎりぎりに、トロント・ブルージェイズのマット・ステアーズを獲得。ほとんどが代打での起用で.294、5打点、2本塁打を打ち、ポストシーズンのメンバーにも残り、優勝決定シリーズ第4試合では、代打で決勝2点本塁打を放った。

MLBにようこそ
フィラデルフィアの捕手は、守備のルイス、打撃のコストとでうまくまかなってきたが、今年は期待の新人捕手がMLBデビューを果たした。高卒から2004年の新人ドラフト第4巡指名を受けてプロ入りしたルー・マースンは、本当は大学でクウォーターバックをするのが夢だったという。しかし高校最終学年で鎖骨を折ってアメリカンフットボールをやむなく断念、野球の道を選んだ。プロ入り後は攻守ともに苦しいシーズンが続いていたが、今季はAA級で.314を打ち、守備面でも着実な成長を遂げて、フューチャーズゲームにも出場。 にはAAA級を飛ばしてMLBデビューを果たした。このオフシーズンに将来を期待されたジェイスン・ハラミロが去ったものの、06年、07年にピッツバーグ・パイレーツの正捕手を務めたロニ・パウリノがやって来たため、マースンはもうしばらくマイナーリーグで経験を積むことになるだろう。

09年への展望
バーレルが抜ける左翼手に、シアトル・マリナーズで強打を揮ったラウル・イバニェスが入ることになった。常に100打点前後を期待できる勝負強さは心強いが、アトリィ、ハワード、イバニェスと並ぶと中軸が全員左打者になってしまう点はやや気にかかる。世界一にはなったものの、来季もワールドチャンピオンを狙うためには、先発投手に不安が多い。ティーム最多勝のモイアーと2年契約を結んだが、何しろ来年は46歳である。どこまで投げられるか見届けてやりたい気持ちは強いが、当然万が一のことにも備えておかなければならないだろう。