シアトル・マリナーズ

08年度の概要
昨年、ティームが勝ち越しているのにもかかわらず、監督マイク・ハーグローヴが突如辞任するという奇怪な事件があったシアトル・マリナーズ。それでも通算88勝74敗で、2003年以来の勝率5割以上のシーズンを送り、今季は7年ぶりのポストシーズン進出を狙っていたはずだったが、開幕からわずかひと月で、そんな希望は消し飛んでしまった。5月7日にアメリカンリーグ西地区の最下位に沈むと、それ以後決して浮上することはなかった。その間、まず6月16日に、膨大な資金をつぎ込みながら低迷するティームの責任を問われて統括ビル・バヴァジが解任され、それから3日後の19日には昨年ハーグローヴを引き継いだジョン・マクラレンからベンチコーチのジム・リグルマンに監督が交代。しかしそれでもティームの状態は好転せず、シーズン通算61勝101敗は、1983年以来の100敗だった。

投手
オフシーズン中に、左腕エリク・ベダード、右腕カルロス・シルバを獲得して、右腕フェリクス・エルナンデス、ミゲル・バティスタ、左腕ジャロッド・ウォシュバーンと並ぶ先発五本柱を形成。しかし、シーズン最後の週までローテーションにいたのは、エルナンデス1人だけだった。ベダードは、開幕早々に臀部を傷めて故障者リスト入り。7月には左肩の故障でメンバーを離れ、6勝4敗、防禦率3.67の数字を残したきり復帰しなかった。次に先発を外されたのはバティスタで、月を追うごとに防禦率が悪化していき、ブルペンに回された8月以降は、2度しか先発する機会を与えられなかった。前年はティーム最多の16勝を挙げていたが、今年は4勝14敗と急落。防禦率も6.26というさんざんの出来だった。ウォシュバーンは、8月までローテーションに加わっていたものの、トレードの噂も囁かれるようになってからは登板機会がなくなり、5勝14敗、防禦率4.69でシーズン終了。シルバも8月までは先発スタッフに名前を連ねていたが、右肘を傷めてからは、やはり登板機会を減らされた。4勝15敗、防禦率6.46は、先発に移動した04年以来最低の成績である。31試合で先発を務めたエルナンデスでさえ、6月に試合中に足首を傷め、3週間ほど休んでいる。そのせいもあって、今季のエルナンデスは9勝11敗と、残念ながらふたケタ勝利に届かなかったが、MLB4年目で初めて200イニング以上を投げ、防禦率3.45、175奪三振は、エース級の数字だった。

先発スタッフと同様に、抑えのJ・J・パッツも、度重なる故障のためにクローザーの仕事を失った。今季2試合目の登板でジョシュ・ハミルトンに逆転本塁打を打たれて負け投手になったが、このとき肋骨を傷めて故障者リスト入り。6月には右肘の故障で再度メンバーを離れた。しかしブルペンに戻ったシーズン後半は4勝2敗8セーヴ、防禦率2.96と、立ち直りの兆しは見えている。パッツ欠場中には2年目の右腕ブランドン・モローがクローザーを務めた。06年の新人ドラフトで全体第5位指名を受けてプロ入りしたモローは、MLBにデビューした昨年、救援で60試合に登板、防禦率は4.12と高かったが、投球回数を上回る三振を奪って注目されていた。パッツを引き継いですぐ、無失点で8試合連続セーヴ成功。8月に入って一時マイナーリーグに送られたが、9月に復帰すると、今度はローテーションの一角に加えられた。MLB初先発となった9月5日のニューヨーク・ヤンキーズとの試合では、8回2アウトまで無安打無得点の投球を続ける好投を見せたが、5試合務めた先発では、2勝2敗、防禦率5.79と不調。制球に苦しむ場面がしばしば見られた。

モローの他に先発に抜擢されたのは、ライアン・ローランドスミス、ライアン・ファイアアーベンドの両左腕。2年目の新人ローランドスミスは開幕からブルペンに控えて、防禦率2点台の好投を見せていたが、エルナンデスの故障中にMLB初先発を務めた。8月からはバティスタの代わってローテーションに定着し、3勝2敗、防禦率3.69の成績を収めた。3年目のファイアアーベントは、昨年も9度先発に起用されて1勝6敗、防禦率8.03。今季もかなり打ち込まれて、1勝4敗、防禦率7.71と、こちらは期待に応えられなかった。R・A・ディッキィは、先日34歳になったばかりのヴェテラン右腕。招待選手から2年ぶりにMLBに復帰したナックルボーラーは、スウィングマンとしてプレイしていたが、夏場以降制球を乱して、出場機会が減った。

昨年右腕投手ではパッツに次ぐ64試合に登板したショーン・グリーンが、今季はティーム最多の72試合でマウンドを務めた。故障から立ち直った右腕マーク・ロウは57試合にも登板したが、防禦率は5.37とあまりよくなかった。03年にMLB昇格以来16試合しか投げたことがなかった右腕ロイ・コーコランも50試合に登板。特にシーズン後半は、5勝2敗3セーヴ、防禦率3.20と、安定した投球を披露している。一方、左腕の救援投手は、昨年ティーム最多の73試合で投げたジョージ・シェリルを放出。昨年56試合に投げているエリク・オフラーハティは開幕早々にマイナーリーグに送られ、ローランドスミスが先発に回り、ヴェテランのアーサー・ローズが7月31日にフロリダ・マーリンズに移籍したので、シーズンが進むにつれて手薄になっていった。2年ぶりのマウンドになった新人セサル・ヒメネスは、月によって出来不出来が激しかったものの、通算で防禦率3.41は悪くない。8月には、06年にスウィングマンとして活躍したことがあるジェイク・ウッズを8月に昇格させたが、あまり活躍できなかった。

野手
ティームでただ一人全試合に先発出場したラウル・イバニェスが、打線の中心として強打を発揮した。シーズン後半は3割を大きく上回る打撃で、ポストシーズン進出を目指すティームから狙われたが、結局マリナーとしてシーズンを終え、3年連続の100打点以上に、打率.293、23本塁打をマーク。得点圏打率.327という勝負強さが目を引いた。スズキ・イチロウも記録の上では162試合全てに出場しているが、こちらはいささか眉をひそめたくなるシーズンであった。打撃では、6月まで打率3割未満を低迷。8月に.350と持ち直し、結局は8年連続200安打の記録は残せたが、全試合に出場していなかったらどうなっていただろう。また、5月のひと月だけで18盗塁を決めるなど、6月までに33盗塁だったのが、7月以降は、22試合続けて盗塁を企てもしなかったこともあり、わずか10盗塁だった。さらに守備位置が中堅から右翼に移ったのも6月のことだったが、これら全てのことが監督交代と前後して起こっているのには、何か因果関係があるのだろうか。

とは言うものの、外野手を二人も全試合出場させる必然性があったとは思われない。スズキ以上の巧打者と評判を取ったこともあるジェレミー・リードや、長打力にはつとに定評のあるウラディミア・バレンティーンはいずれも200回以上打席に立って経験を積むことができたが、その他の若手外野手はほとんどプレイの機会を与えられていない。チャールトン・ジマースンがたった1イニングだけ顔を見せた程度では、本当にティームを再建するつもりがあるのか疑わしくなってくる。

内野手では、内側と外側とで、はっきり明暗が分かれてしまった。ホセ・ロペスは、ティーム2位の89打点、打率.297、同じく3位の17本塁打をマークし、打てる二塁手の定評を得たようだ。広い守備範囲と堅実なグラヴさばきも披露した。ただシーズン終盤、打撃を活かすために一塁を守ることもあり、そのときには新人のルイス・バルブエナが二塁に起用されたが、来季はまた二塁ロペスで落ち着くだろう。遊撃手ユニエスキ・ベタンコウルトは、3年連続で150試合以上に出場。目を引くような数字はない代わりに、毎年安定したプレイを示している。一方、一塁手リッチー・セクスン、三塁手アドリアン・ベルトレは、ともに05年にシアトルに迎えられた選手同士。しかし、セクスンは年々成績が低下していき、打率.218、30打点、11本塁打にまで落ち込んだ今季は、オールスターゲーム直前に解雇されている。セクスンが抜けた後は、新人ブライアン・ラヘア、内野外野どこでもこなすヴェテランのミゲル・カイロが主に起用され、二塁のロペスが守ることもあった。このうち、ラヘアは長打力が大いに期待されている。ベルトレは、03年以来で最低の77打点。9月1日に行なわれたテキサス・レンジャーズとの試合で全塁打をマークするという晴れ舞台も経験したが、親指の手術を受けるため、2週間早くシーズンを終えている。以後シアトルの三塁には新人のマット・トゥイアソソポが起用された。

さらにひどかったのは指名打者で、昨年は.314を打って巧打者ぶりを披露したホセ・ビドロが、今年は2割がやっとという打撃不振に苦しみ、8月に解雇された。その影響で、今シーズン指名打者に起用されたのは、69試合のビドロから、今季デビューしたばかりのタグ・ヒューレット、ラヘア、トゥイアソソポなど、16人もいた。

今年4月25日に、クラブはジョウジマ・ケンジと新たに3年契約を結んだが、この時点でジョウジマの打率は.200。その直後にMLBに呼ばれたジェフ・クレメントも、当初は打撃で苦しんだが、8月に入って打率.325をマーク。これでほぼ正捕手の座を手に入れたかと思われた矢先に、故障のためにメンバーを離れなければならなくなった。それで9月にマスクをかぶったジョウジマが、ひと月だけでシーズン全打点の3分の1に当たる13打点を挙げている。3人目の捕手ジェイミー・バーキは、盗塁阻止率4割と、動きの良さを披露。9月6日のデトロイト・タイガーズとの試合では延長15回にマウンドを務め、負け投手になった。

シアトルには内野外野どこのポジションでもこなせる選手が何人もいる。今年マリナーになったミゲル・カイロは、バッテリーと中堅手以外の全ての守備位置でプレイ。しかし、今年も本塁打がなく、これで06年から3年連続で本塁打なしのシーズンが続いている。カイロと同じく、バッテリー以外ならどこでもこなすウィリー・ブルームクウィストは、スズキが右翼に戻った直後に、リードとともに中堅を守ることが多かったが、8月に右太腿裏を傷めて故障者入りスト入りし、そのままシーズンの残りを全休した。春の練習試合で猛打を振るったマイク・モースは、試合中に左肩を脱臼。わずか5試合に出ただけでシーズンを終えてしまった。言いがかりのような薬物検査結果のショックからついに立ち直れるかと期待していたのに、とても残念なことだった。

MLBにようこそ
父親も兄もアメリカンフットボールの選手として有名だったマット・トゥイアソソポが、アドリアン・ベルトレに代わる三塁手として、9月5日にデビューを果たした。今季はAAA級タコマのメンバーで開幕を迎え、111試合に出場して打率.281、73打点、13本塁打と、04年のドラフト第3巡指名でプロ入りして以来最高の数字をマークしている。MLBでは14試合に出場して打率.159。守備でも2個の失策を犯しているものの、アメリカンフットボールで培ったスピードが、いつか活かされるときが来るだろう。

09年への展望
先月新しいティーム統括に、ミルウォーキー・ブルワーズのスカウト部長を務めていたジャック・ズレンシクが就任。現在は、ワシントン・ナショナルズのベンチコーチに招かれたリグルマンに代わる監督を探しているところで、シアトルが本格的に選手補強に取りかかるのは、その後になるだろう。ここ数年、フリーエージェントの獲得も、トレードもうまくいっていないという状況を鑑みて、統括ズレンシクはどのような手を打ってくるのか注目される。しかし、補強の内容と言うよりも、クラブの体制に大きな問題があるのではないかと思わせる事件が、ここ数年のマリナーズには多いような気がする。