08年度の概要
1958年にニューヨークから西海岸に移転して、今年が50周年という記念のシーズンだったサンフランシスコ・ジャイアンツ。シーズン前半は、連敗が長く続かない代わりに、それを取り返すだけの連勝もできないという状態で40勝55敗と負け越していた。とは言うものの、この時点でのナショナルリーグ西地区首位アリゾナ・ダイアモンドバックスでさえ47勝48敗と勝率5割を下回っていただけに、逆転の可能性が全く残されていなかったわけではなかった。8月以降のジャイアンツは勝率5割ぎりぎりの数字しか挙げられず、結局シーズン前半の負け越しを挽回できないまま、72勝90敗の4位に終わった。ジャイアンツと同じ年に北米大陸を横断してきたロサンジェルス・ダジャーズがポストシーズン進出を決めたというのは、いささか皮肉な話であった。
投手
今年が2年目になる右腕ティム・リンスカムの成長ぶりが目覚ましい。4月に4勝1敗、防禦率1.73の好スタートを切ると、5月、6月は負けなしの5連勝もあり、シーズン前半は11勝2敗、防禦率2.57。シーズン後半に入っても調子は衰えず、シーズン通算成績は、MLB最多の265奪三振、ともにリーグ2位の18勝、防禦率2.62だった。シーズン終了後にはサイ・ヤング賞に選出されている。一方、02年にアメリカンリーグのサイ・ヤング賞に選ばれている左腕バリー・ジトは、最悪のシーズンだったろう。開幕試合を5回4失点の投球で落としてから、5月半ばまで8連敗。5月23日に今季初勝利を挙げてからも、好不調の波が激しい投球内容はシーズンを通して変わることはなく、01年から8年連続ふたケタ勝利は辛うじてマークしたものの、17敗、防禦率5.15は自身のワースト記録だった。
一昨年13勝をマークしている右腕マット・ケインは、2年連続で大きく負け越した。6月9日から13試合続けて被本塁打なしで、6勝をマークするという好投も披露したが、シーズン通算では8勝14敗。防禦率3.76とよく抑えていただけに、少し状況が変われば、すぐにふたケタ勝利を挙げられるようになるはずだ。昨年14勝8敗、防禦率3.92をマークして、ローテーション入りを確実にしたかと思われた左腕ノア・ローリーは、前年に傷めた肘の手術を受けたために、シーズン全休を強いられた。新人左腕ホナタン・サンチェスは、開幕から5人目の先発投手に抜擢された。6月に5勝1敗、防禦率3.10と好成績を収め、ふたケタ勝利は確実と見られていたが、7月に入ると5連敗。8月に肩を傷めてメンバーを離れたこともあって、勝ち星が伸びず、最後は9勝12敗、防禦率5.01。規定投球回数にもわずかに届かなかった。ローリーに代わる先発投手には、ブルペンからケヴィン・コレイア、ブラッド・ヘネシィの両右腕、新人の左腕パトリック・ミチュ、右腕マット・パーマーが起用されているが、4人合計で4勝15敗、防禦率6.44はひどすぎた。
ロブ・ネンが故障のためにティームを去ってから、クローザーが定着しなかったサンフランシスコだったが、MLB3年目の左腕ブライアン・ウィルスンがようやくそれらしい働きを披露した。63試合登板で41セーヴは、02年にネンが43セーヴをマークして以来の最多記録だったが、気になるのは4.62という防御率の高さ。偶数月には防禦率2点台といい投球をしているのに、奇数月では7点近くまで防禦率が跳ね上がるという、不安定さだった。ウィルスンを始め、サンフランシスコのブルペンは全体に防御率が高めで、ティーム最多の67試合で救援を務めた左腕ジャック・タシュナーは、シーズン前半は3.03だった防禦率が、8月に防禦率18.00と打ち込まれたため、シーズン通算では4.88。65試合で投げたヴェテラン右腕タイラー・ウォーカーも、ウィルスンと同じく、偶数月が良くて奇数月には打ち込まれるという、ローラーコースターのような投球で4.56。5年間で217試合の登板経験があるヴィニー・チャークは、5月までは防禦率2点台とよく投げていたのに、6月には防禦率11.57と成績が急落。譲渡予定選手とされたが、結局7月にマイナーリーグに送られ、そのまま戻ってこなかった。5月にデビューした新人左腕アレクス・ヒンショーが点抑えとして防禦率3.40をマークしたのが目を引くくらいだった。右腕の新人では、2年目のビリー・サドラー、今年がデビューの年になったセルヒオ・ロモ、オシリス・マトスが30試合前後に起用されているが、この中では、3勝1敗、防禦率2.12、34回を投げて33個の三振を奪ったロモの投球が目を引く。3年ぶりにMLBに呼び戻してもらった右腕ヤブ・ケイイチの防禦率3.57も悪くはなかったが、相変わらず制球に難があり、引き継いだ走者に得点を許す場面も目立ち、数字の割には投球内容は冴えなかった。かつては組織内No.1投手と評されたこともある右腕メルキン・バルデスが04年以来4年ぶりにMLBのマウンドに立ち、17試合で防禦率1.79、MLB初勝利もマークしたが、肘を傷めて5月半ばにメンバーを離れたのは残念だった。
野手
1通算最多本塁打記録のバリー・ボンズが抜けた影響を懸念する声もあったが、打点力、守備力の衰えを考慮すれば、契約更新しなかったのは賢明だった。むしろ新加入選手が不振だったこと、ヴェテランから若手への移行に時間がかかっていることが、このティームの大きな問題だろう。ボンズに代わる強打者としてフィラデルフィア・フィリーズから迎えたアーロン・ロワンドは、オールスターゲームに選出された前年の打率.309、89打点、27本塁打から、今年は.271、70打点、13本塁打と成績が急落している。昨年ゴールドグラヴに選ばれた守備には影響が出なかったのがせめてもの救いで、リーグ水準をはるかに上回る守備範囲の広さで、しばしば投手を助けた。ボンズの抜けた左翼手に抜擢されたのは、2年目の新人フレッド・ルイス。デビュー2試合目で全塁打をマークしたほどの幸運は発揮できなかったものの、133試合に出場して規定打席をクリアできたのはよしとしよう。シーズン中盤まではリードオフマンで起用され、出塁率.351、85得点、21盗塁とまずまずの成績も残している。
得点力の低下と言えば、長打力のあったペドロ・フェリスに代わる三塁手探しも難航し、結局フロリダ・マーリンズから放出されて行き場所をなくしていた二塁手ホセ・カスティヨと契約して三塁を守らせるという非常手段を打った。しかし、MLBでは経験のない三塁の守備はいかにも不安定で、90試合で15失策。守備範囲もリーグ水準を下回った。もともと長打者ではないから、打撃もあまり期待できず、112試合で.244、35打点、6本塁打しか打てず、8月にはヒューストン・アストロズに移籍している。それ以降は、リッチ・オーリリアを中心に、若手のライアン・ローリンガー、パブロ・サンドバル、36歳の新人スコット・マクレインを併用して、やっとシーズン終盤を乗り切っている。しかし、打率.345を打ったサンドバルの打撃は注目を集めた。本来は捕手ながら、三塁の他に一塁でもプレイしており、来シーズンはどのポジションにサンドバルを定着させるか、監督ブリュス・ボシの采配が注目される。もしサンドバルが三塁に入るということになれば、レギュラー一塁手の筆頭候補はジョン・バウカーだろう。バウカーは、4月12日のデビュー試合でMLB初本多を含む2安打、3打点をマークして、MLB定着のチャンスをつかんだ。7月、8月に調子を落としてマイナーリーグに送られていたが、9月の40人枠に加えられると、主に代打の出場だったが打率.346を打ち、打撃復調というところを示した。シーズン開始前には正一塁手と見られていたダン・オートマイアーは、打撃不調に加えて、5月下旬に指の骨折で故障者リスト入り。その後は出場機会がなかった。守備には定評のあったトラヴィス・イシカワは、バウカーと入れ替わって、2年ぶりにMLB昇格を果たした。9月には打率.296をマークしており、打力も備わった来季は、レギュラー獲得のチャンスかもしれない。オーリリアは、一塁、三塁の両方で合計99試合に先発を務め、打率.283、52打点、10本塁打を打っているが、守備ではどちらも動きがよくなかった。
打線の中心として活躍したのは、ゴールドグラヴ2度選出の実績を持つベンジー・モリナ。アナハイム・エンジェルズ時代には守りの方で知られた捕手だったが、ここ数年打撃面でも大きく進歩を見せており、今季の打率.292、95打点、16本塁打は、ベストの数字と言っていい。しかし、控え捕手はやや手薄で、エリエセル・アルフォンソが故障したため、今年デビューのスティーヴ・ホルムが2番手の捕手を任されたが、打率.262をマークした打撃はともかくも、盗塁阻止率が1割未満というのは、やはり経験不足からだろうか。ランディ・ウィンはティーム最多の155試合に出場して、ティーム唯一の打率3割、25盗塁をマークした。ルイスが息切れしたシーズン終盤はリードオフマンとしても働いている。一方、ブリュス・ボシお気に入りのデイヴ・ロバーツは、今年も故障続きのシーズンでわずか52試合にしか出場できなかった。内野外野どこでもこなせる、俊足のケヴィン・フランゼンがアキレス腱の手術でシーズンの大部分を棒に振ってしまったのも痛かった。
41歳の遊撃手オマル・ビスケル、36歳の二塁手レイ・ダラムの両ヴェテランはいかにも衰えた。ビスケルは、今年5月25日に遊撃手としての出場試合数が史上1位の2,584となったが、膝の故障を抱えながらのプレイは厳しく、守備範囲がすっかり狭くなってしまった。打撃でも打率.222と冴えなかったビスケルは、クラブから再契約の申し出はなく、いよいよ引退となるかもしれない。ダラムは、大きな故障があったわけではないが、06年にマークした.293、93打点、26本塁打の再現はもう無理のようだ。打率こそ.293と悪くなかったものの、32打点、3本塁打は、中軸としては物足りなく、オールスターゲーム直後に、ポストシーズン進出を目指すミルウォーキー・ブルワーズに移籍した。シーズン後半はエウヘニオ・ベレス、ブライアン・バーリズ、イバン・オチョア、ブライアン・ボコックの新人4人が二遊間に起用されている。いずれも脚力のある選手で、ベレスは15盗塁、バーリズは13盗塁をマークしたが、ボコックは4盗塁、オチョアは盗塁の機会がなかったようだ。打撃では打率.283、出塁率.357のバーリズが他の3人から抜きん出ているが、全員守備面での数字が冴えなかったので、来年の春期練習では、守りで差をつけたい。若手といえば、2年目のネイト・シアホルツは来年がMLB定着の大きなチャンスになりそうだ。北京のオリンピックに呼ばれてしまったために、9月になるまでMLBに昇格できなかったのが残念だが、最初の5試合で5割を打って注目を集めた。
MLBにようこそ
今年の新人ドラフトで追加第1巡指名を受けてプロ入りしたコナー・ギラスピーが、早くもMLBデビューを果たしている。8試合出場で5打数1安打では、評価の下しようもないが、四球を2個選んでいる一方、三振はなしというところに、巧打者の片鱗がうかがえる。来季のサンフランシスコは、パブロ・サンドバルが一塁と三塁と、どちらで起用されるかによって、ティームの編成が大きく変わってくるだろう。だが、サンドバルが一塁に入るとすれば、来年後半から再来年には三塁横に立つギラスピーの姿が見られるかもしれない。
09年への展望
全体的に防御率の高かったブルペンに、シンシナティ・レッズの左腕ジェレミー・アフェルトを迎えたのは、いい人事だと言える。ジト、ケインの両先発にはふたケタ勝てる技量があるし、投手スタッフの再編成は今後順調に進みそうだ。サンドバル、シアホルツ、ベレス、バーリズ、オチョア、バウカー、イシカワ、オートマイアーと、マイナーリーグ時代から将来を期待されていた若手は、今年MLBでの出場機会を与えられた。この中からさらに成長を遂げた何人かがレギュラーを確保すれば、このティームの将来はそれほど暗くはないと思う。